アジアカジノ市場の成長性
今、アジアのカジノ市場が沸いている。2002年に市場開放を果たし、天井知らずの成長をみせるマカオカジノ市場。さらにはシンガポール、日本、台湾など数々の有望市場の合法化が期待され、世界のカジノ企業が熱い視線を注いでいるのだ。
アジア圏の経済成長
現在、アジアカジノ市場が急成長している根底には、アジア各国経済の急成長が大きく影響している。下表は世界各国の2000年度実質GDP成長率を順位付けしたものである。
各国実質GDP成長率ランキング
順位 | 国名 | 成長率 |
1 | ポーランド | 15.8 |
2 | シンガポール | 10.3 |
3 | 香港 | 10.2 |
4 | 韓国 | 9.3 |
5 | マレーシア | 8.3 |
6 | 中国 | 8.0 |
7 | ボツワナ | 7.7 |
8 | ルクセンブルク | 7.5 |
9 | イスラエル | 7.4 |
10 | トルコ | 7.2 |
11 | メキシコ | 6.6 |
12 | ネパール | 6.2 |
13 | ミャンマー | 6.2 |
14 | スリランカ | 6.0 |
15 | バングラデシュ | 5.9 |
16 | オマーン | 5.5 |
17 | アイスランド | 5.5 |
18 | フィンランド | 5.5 |
19 | エジプト | 5.4 |
20 | イラン | 5.2 |
表内で網をかけているのがすべてアジア圏の国々であるが、ランキング20位中実に14ヶ国がアジアの国々となっている。特に上位にランクされているシンガポール、香港、韓国、マレーシア、中国の東アジア圏の経済成長が、他の地域と比べて際立っている事が見て取れる。
このような東アジア圏各国の経済成長は、各国の国民所得と富裕層の増加にも大きく影響を与えている。2004年、Capgemini社とMerrill Lynch社は世界各国に存在する富裕層の実態に関する調査を「World Wealth Report」にまとめて発表した。そのレポートの中で$US100万ドル以上の純個人資産を持つ富裕層であるHNWI(High Net Worth Individuals)の「増加率」で順位付けしたランキングでは、香港(30%, 1位)、インド(22%, 2位)、韓国(18%, 同率3位)、中国(12%, 同率6位)とアジア圏の発展途上国が多数ランクインしており、世界で最も富裕層の増加している地域がアジア圏であるという事がわかった。
世界の富裕層増加率
出所;World Wealth Report 2004, Capgemini & Merrill Lynch
さらに同レポートは、アジア圏のHNWIが抱える総資産額は2008年までに年率7%の成長を続け、およそ9.3兆ドルにまで膨らむと予測している。これは世界のHNWIが抱える総資産のおよそ23%にも及ぶこととなる。
アジア圏の国際観光産業の成長
富裕層の増加に呼応する形でアジア圏の国際観光産業も大きく成長しようとしている。2003年度の世界の総国際観光市場において、観光客数はおよそ7億人、市場総額は50兆円を大きく超え国際観光産業はすでに世界の一大産業へと成長している。世界の観光産業を振興する国際機関WTO(World Tourism Organization; 世界観光機関)の発表に基づくと、今後ますます国際観光市場は成長し2020年までに現在の2倍をはるかに上回る総観光客数16億人を突破すると予測されている。
国際観光客の成長予測
出所;世界観光機関(WTO)
その中でも東アジア環太平洋地域は2020年までには全国際観光客数のおよそ25%を占める約4億人の国際観光市場へと成長するとされおり、ヨーロッパ圏と並ぶ注目の成長市場である。
アジア圏カジノ市場の大躍進
現在、このような国際観光市場の成長の恩恵を一身に受けているのが、中国特別行政区「マカオ」のカジノ産業である。マカオは2002年におよそ40年にわたって続いてきた独占的なカジノ市場を開放し、産業の自由化が行われた。今年5月には待望されていた欧米スタイルの大規模カジノが米国資本の元で開業をはじめ、周辺各国より一気に顧客を集めた。
以下の表は東アジア圏の主な国々の2003年度国際観光客数をまとめたものである。前項でアジア圏の国際観光市場の成長性を紹介したが、実は2003年統計を単年度で見るとSARS(重症急性呼吸器症候群)流行の影響でアジアの国際観光市場は「冬の時代」であった。前年度比で国際観光客数をおよそ20%近くも落としたマレーシア、シンガポールを筆頭に、韓国(11.1%減)、タイ(9.0%減)と主要各国が軒並み観光客数を減らしており、散々たる結果であったことがわかる。しかし驚くべきは、そんな状況の中でもマカオのみが、年度比で国際観光客数を増やしている点である。
2003年度アジア諸国の国際観光客数
国際観光客 (単位;万人) | 増加率 (前年度比) | |
マカオ | 1,190 | 3.1% |
日本 | 520 | -0.4% |
フィリピン | 190 | -1.3% |
香港 | 1,550 | -6.2% |
中国 | 9,170 | -6.4% |
タイ | 880 | -9.0% |
韓国 | 480 | -11.1% |
シンガポール | 610 | -19.0% |
マレーシア | 1,060 | -20.4% |
出所;Respective Tourism Bureau
以下の表は2001年から単月ごとの国際観光客数をグラフにしたものである。これを見てみると、2003年の中頃にSARSによって観光客の激減を見た以外、マカオ観光市場は常に右肩上がりの成長を見せていることが判る。この傾向はSARSの影響が無くなった2004年に入って特に顕著に表れており、2004年年間累積観光客数は前年度比で40%増、カジノ収益は30%増にまで達している。
出所;Macau Government Tourist Office発表の月間観光客数を元に弊社作成
また、2004年1月から10月までの国別累積訪問客数で見ると、1位中国から始まり9位のタイまで東アジア一円から広く顧客を集めており、マカオがいかに東アジア圏の経済成長の恩恵を受けているかが見て取れる。
2004年 1月〜10月
国別累積訪問客数
順位 | 国名 | 訪問者数 (単位;人) |
1 | 中国 | 7,836,240 |
2 | 香港 | 4,207,175 |
3 | 台湾 | 1,041,891 |
4 | 日本 | 93,269 |
5 | フィリピン | 62,578 |
6 | 韓国 | 50,497 |
7 | シンガポール | 31,942 |
8 | マレーシア | 31,880 |
9 | タイ | 29,909 |
出所;Macau Government Tourist Office発表の月間観光客数を元に弊社作成
同時にマカオに向けた投資も好調である。今年マカオオープンしたSands Macauは開業以来、毎日$137万以上のペースで売上げを上げており、運営企業Las Vegas Sands社は2004年12月のIPO(新規株式公開)で61%の株価上昇、カジノ業界のIPOとしては史上最大の上昇率を達成した。
その他にも、今後5年で最低5件の巨大カジノ開発計画が進められているマカオでは次なる投機チャンスに世界の金融市場から熱い視線を受けている。2005年5月にマカオで行われる予定であるアジア圏最大級のカジノコンベンションAsian Gaming Expo 2005においても、ドイツ銀行がホストとなり投資家向け専門のセミナーが予定されている。今後、金融サイドからのマカオ熱は益々盛り上がるであろうことが予想される。
また、アジア圏カジノ業界で期待されているのはマカオだけではない。現在、東アジア各国では急成長をするマカオを尻目に合法化準備を急いでいる。その中でもシンガポールはすでに行政府が具体的な合法化の検討に入っており、2005年初頭には政府として何らかの結論を出すといわれている。その他にも日本、台湾、タイ、グアムなど、優良な市場や観光資源を抱える国々でのカジノ合法化も続々と計画されており、今後もアジア圏のカジノ市場からは目を離すことができない。
|
参考文献;
総務省発表の統計資料,総務省
World Wealth Report 2004, Capgemini & Merrill Lynch, 2004
世界観光機関webサイト、世界観光機関
観光統計, Respective Tourism Bureau
カジノ統計資料, Macau Government Tourist Office