業界の健全性維持とカジノ不適格者 Author admin Reading 16 min Views 1 Published by 29.04.2017
業界の健全性維持とカジノ不適格者
排除者リスト
カジノを合法とする国や地域では、多くの場合、カジノ業界に不適格な人物のカジノ施設への立ち入りを禁止する法律が存在する。アメリカ合衆国で最大のカジノ市場を持つネバダ州においては、このようなカジノから排除されるべき人物を集めたリストがカジノ管理委員会の手によって作成され、「排除者リスト(List of Excluded Persons)」として流通している。
このリストに名前が記されるのは以下のいずれかの項目に該当する人物である。
過去に重犯罪、もしくはギャンブル関連犯罪を行った人物 ネバダ州カジノ管理法の定めるライセンス保持者の各種義務の履行を怠った人物 著しい悪評を受けており業界の健全性を損なわせる可能性のある人物 (具体的には組織犯罪等に深く関係を持つ人物) その他、行政府により各種賭博場からの排除を宣告された人物 以上の条件に当てはまる人物をカジノから排除対象とする背景には、長い間カジノ業界が組織犯罪や詐欺行為(イカサマ行為)の対象として狙われてきたという歴史的な事情にある。業界にとって不適格な人物の排除は、カジノ業の社会的意義を保持と、法の実効性の維持に不可欠であり、この文言はネバダ州のカジノ管理法にも明確に規定してある。(NRS463.151.1)
また、このような行政による不適格人物の排除は、
カジノに関連する様々な権利は、憲法上で規定された基本的人権に含まれるものでは無く、「特別に付与された権利(privilege)」として場合によっては行政側が個人から剥奪することも可能な権利である
というカジノ法制の根本理念に基づいたものである。行政が不適格であると判断した人物は、カジノ業界で働くこと、カジノを所有することはもちろんの事、カジノ施設内に存在する事すらも禁止する事が出来るという行政への強い権限保障こそが、カジノ業界の健全性維持に繋がっているのである。
排除者リストへの掲載手続き
排除者リストへの個人名の掲載は当該個人にとって非常に不名誉な事であり、後の社会生活に著しく大きな影響を与える恐れがあるため、その検討には細心の注意を払わなければならない。そこでネバダ州においては、最高裁判所の設定した以下のような手続きに基づいて排除者リストへの掲載が行われる事となっている。
まず、様々な情報源を元にカジノ管理委員会が候補者をリストアップする リストアップから更なる調査に進めるためには、委員の過半数以上の賛成が必要となる 候補者として委員会の追加調査が決定した場合には、当該人物に対して、 などによって告知が行われる。
職員の直接派遣から30日以内、もしくは新聞での発表から60日以内の期間、候補者は委員会に対して説明を求めるヒアリング会の開催を要請する権利を有する 員会は候補者の要請の30日以内にヒアリング会を開催しなければならない ヒアリング会において、委員会はまず候補者が排除者リストへ掲載される根拠を示さなければならず、候補者はその反論として様々な証拠を提出する事が出来る。候補者には法廷で被告人に認められている権利と同様の権利を付与されており、証人の召還、物的証拠の提出などが認められている。 ヒアリングの結果を受けて、委員会が当該人物の排除者リストへの掲載に対して最終的な決断を下す。 委員会決定に不服がある場合には候補者は裁判所に対して不服申し立てを行う事が出来、法廷によって委員会決定の正当性を争う事が出来る。 こういった手続きを経て当該人物は排除者リストに
氏名 身体的な特徴(身長、体重、血液型、髪や目の色、その他対象者の識別を助けるであろう様々な要素) 誕生日 写真 などが掲載される事となる。排除対象となった当該人物はネバダ州内のどのカジノにおいても、ゲーミングフロアのみならず、客室、劇場、レストランなどを含むカジノの所有するすべての施設に立ち入る事が禁じられる。ちなみに実際の排除者リストはネバダ州カジノ管理委員会のwebサイトで一般に公表されており閲覧可能である。
カジノの排除義務
一方、ネバダ州内の各カジノに排除者の自施設内への「立ち入り防止」が義務付けられている。さらに、もし排除者の立ち入りが確認された場合は
速やかに委員会に報告をする 排除者に自施設からの退去を勧告する 排除者が勧告に従わない場合は地域警察と委員会に通報し、その協力の下に強制排除措置を履行する という手続き上の義務も付与されており、このような義務の不履行は行政罰の対象となる。
テクノロジーの活用
各カジノのゲーミングフロアには一定数の監視カメラの設置が義務付けられており、このカメラ映像は監視室でモニタリングされ専属の監視員によって24時間監視されている。監視員はプレイヤーや従業員のイカサマ行為の監視はもちろんの事、排除者の施設入場も同様に監視している。一般的に現在の排除者監視はカジノ管理委員会より配布された写真やプロフィールを元に、監視員がカメラを通して目視で排除者の認識を行う手法で行われている。しかし近年ではテクノロジーの進歩によってより効率的に排除者の認識を行う技術が確立しつつある。(右写真はeye in the skyと呼ばれるカジノの監視カメラ)
最新の技術ではバイオメトリックスを利用し個人の顔面の特徴を数値化し、モニターに写った映像を解析、データベース化する事が可能となっている。この種の顔面認識システムの代表的な製品である米国Identix社の開発したFaceIt ARGUSという製品は、監視カメラをBNA (Biometric Network Appliance)と呼ぶネットワーク管理システムに接続することで数十台の監視カメラを同時に稼働させることができる他、ハードディスクに保存されているデータベースから毎分1500万件を照合する処理能力を持つ。このような監視システムはすでに実用化に至っており、空港でのテロリスト対策や国境警備など世界的に導入が始まっている。カジノにおいてもすでに数十に及ぶカジノが排除者監視や自己防衛強化のために同様のシステムを導入している。
顔面認識システムのインターフェイス (写真はNECのNeo Face)
現在、この顔面認識システムは個人のプライバシー権との兼ね合いで未だに若干の問題が残っており、現在、法的枠組みや利用のためのガイドラインの整備が急速に進んでいるが、このような問題の解決が付いた時点で業界内でより広い導入が進むであろう。将来的には行政の定めるカジノ管理法にも組み込まれ、より確実性の高いカジノ産業の健全性維持への活用が期待される最新技術である。
参考文献;
State oft Nevada Regulations of the Nevada gaming Commission and State gaming Control Board Nevada Gaming Control Board Webサイト(https://gaming.nv.gov/) Identix社 webサイト (https://www.identix.com/) NEC 社 Neo Faceに関するプレスリリース, 2002年10月17日
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